桜の花も満開に咲き、新入社員のスーツ姿がまぶしい季節になりました。
三十数年前、私にもそんな頃がありました。期待と緊張でドキドキしながら一生懸命に
仕事をおぼえたものです。
新米社員の最初の仕事はお茶くみ。当時テレビコマーシャルでしか見たことのない
インスタントコーヒーをいれてくださいと言われたものの、分量がまったく分からず、
周囲に教えてくれる先輩も見当たらないので適当にいれて出してしまいました。
あとでカップをさげに行くとそのまま残っています。それもそのはず1カップに5スプーン
も入れたのですから!
またある時はカステラを切ってお茶といっしょに出すように言われ、持って行くと
係長が「カステラはうまかったやろ?」と聞くので、「文明堂なのでおいしいと思います」
とすまし顔で答えました。戻ってから鏡を見るとびっくり。ブラウスの胸のあたりに
カステラの粒がパラパラと付着しているではありませんか! ヤバッ!
端のほうを少しばかりツマミ食いしたのですが、バレてしまいました。
ハンドデリバリーといって大事な書類を直接届ける仕事も、新人の仕事でした。
ある日古いビルの中にある事務所に書類を届けた帰り、下りのエレベーターが
階と階の間で止まってしまいました。ボタンを押したりいろいろとやってもびくとも
しません。緊急電話も電話線が切れて垂れ下がっています。外で声が聞こえました。
「やだあ、また止まってる。階段で行こ行こ」
「すみませーん!だれか助けてー」と叫んでも聞こえないようです。金曜日の夕方。
このまま夜になったらと不安でいっぱい。その時、昔見たアメリカ映画の中で
砂漠の真ん中でエンストした車を主人公が思いっきり蹴飛ばしてエンジンがかかった
シーンがあった事を思い出し、私もその主人公のように思いっきりドアを蹴飛ばして
みました。次の瞬間、スーッと降り始めたときの感激は一生忘れられません。
私のフレッシュマン時代は失敗の連続でしたが、楽しい青春時代でした。